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VOL.4: Azzurro Interview (Interview and Text by Kou Furukawa)

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――あの、若い子に「終わってる」って言われたっていう話が出ましたけど、歳とってくると自分がやってきたことや自分の影響受けたものがある程度、俯瞰できるようになるじゃないですか。

AZZURRO はい。

――特に若い子と接すると、それがより客観的に見れるわけで。若い子たちが出来て自分にできないこと、逆に自分に出来て若い子たちに出来ないことが見えて。若い子との差によって自分がなんなのか、わかってくることがありますよね。そのときに、その若い子の言い方を借りれば自分が一回「終わった」として、そこからどうするのかっていうとき、自分が10年だか20年だかやってきて溜まったものを使って、まったく新しいものは生み出せないかもしれないけど、でもいままで自分がやってきたものをムダにしないかたちで、自分なりに前に進んで行こう、みたいなのって健全だと思うんですよ。

AZZURRO うん。

――そうすることによって歳を取っても成長出来るし、若い子も希望を持てるかもしれないし。

AZZURRO 前のアルバムにしても、今回にしても、年下の人が声をかけてくれるんですよ。「アルバムやりましょうよ、出しましょうよ」って。そう言ってもらえるのは凄くありがたい話で。だから声がかかるうちは、という気持ちはある。ビートをつくること自体はたぶんやめないから、あとはどれだけ社会性を保てる場にいるか、じゃないですかね。

――健全だし誠実だと思いますけどね。若い子って、つまり他者ですけど、他者と関わるのは面倒だし億劫だからコミュニケーションを断ってしまう人も多いですけど。

AZZURRO ああ、そうですね。でも、もっと言ってほしいくらいですけどね。この歳になると、あれこれ言ってくれる人も少なくなるんで。例えば早乙女さんみたいな人に、ミックスを仕上げて持っていって「全然ダメ」みたいなことを言われるのは貴重だから。もちろんこの歳で“勉強勉強”って言い過ぎるのもアレだし、自信を持つところは堂々とやっていけばいいと思うんだけど、でも前より良いものを作りたいと思い続けている限りは、死ぬまでインプットしていくしかない。だから、出来るだけいろんなところに顔を出して、ダメ出しも含めてフィードバックはもらっていないとたぶんダメだろうというのは、どこかで思っています。

――若い子、嫌いじゃなさそうですよね。

AZZURRO 磯部(涼)とかインナー・サイエンスみたいな才能のある若いヤツが出てくる感じは好きですよ。そういう刺激は欲しいですね。

――トラックメイカーだって、歳をとらない魅力もあるけど、歳をとってく魅力もありますよね。

AZZURRO またレベルが全然違うんでナンなんですけど、ヤン富田さんや元YMOの3人とかは、自分のやってきたことを蔑ろにすることなく、常に自分を更新することを考えているように見える。だからその周りに例えばコーネリアスみたいな人が集まったりすると思うんです。存在としてはああいう大人でありたいと思いますね。

――大人であるというのは、音楽性の話でもありますけど、それこそまともに社会人として働くとか、家庭を養うとか、そういうことも当然あるじゃないですか。

AZZURROAZZURRO まあ、そうですね。

――それを言うと白石さんは仕事も持ってるし、お子さんはまだいらっしゃらないけど結婚もしてて。

AZZURRO うん。

――そことのバランスっていうのは? 奥さんはアルバムって聴きます?

AZZURRO たぶんフルでは聴いていないんじゃないですかね。

――じゃあ、もちろん制作途中の音とかも全然聴いてない?

AZZURRO 作業をしている断片断片は聴いてると思いますけど、フルでは聴いていないです。「聴いてくれよ」とも言わないですね。

――じゃあ、例えば迷ったときに聴かせるとか、そういうこともまったくないんですね。

AZZURRO ああ、ないですね。

――最初から白石さんのつくっている音楽に対して距離を保ってる?

AZZURRO そうですね。付かず離れずという感じです。その距離感が気持ちよくて結婚したのかもしれない。

――あんまりそこは聴かれたくない派?

AZZURRO どうなんだろう? 別に聴かれても嫌ではないですけど。

――「聴かせて」とか言って意見言う人もいると思うんですけど。

AZZURRO まあ、それで成り立つ人であれば別にそれでいいと思うんですけど、ウチはそういう人ではなかったし、そうじゃないから嫌だということでもなかったんで。わりと現場は来てくれるほうだけど。でも私生活のパートナーとしては俺はそっちの方がいいですね。このぐらいの温度感が有り難いというか。向こうにしても、俺が会社から帰って来て、ずっと相手しなければならないよりは、曲つくってるときはほっといていいや、みたいな。赤ちゃんが飯食ってとか眠っているのと一緒でいいと思っている……んじゃないかな。

――いまの白石さんって三種類の時間があると思うんですよ。会社員としての時間、家庭人としての時間、あとアルバム制作というソロタイム。

AZZURRO はい。

――普通、一番目の「会社員としての時間」をなくして、出来れば音楽制作に専念したいと思うと思うんですけど。

AZZURRO 以前は悩んでいたんですよ。会社員をやりながら音楽をやっているのが、社会人としてもつくり手としても凄く中途半端なんじゃないか、とか。でも、そこはもう仕方ないかって。開き直っているわけではないけれど、でもどっちも好きで、それでいいと言ってくれる人が、有り難いことに周りに居てくれる。例えば、今のサンレコの編集長の國崎さんもそうだし。だから、俺は両方好きなんだから別にいいやと最近は思えるようになりました。中途半端だと思う人もいるだろうけど、それは俺が好きにやった結果がこの15年なので。

――ていうか、結構最近まで迷いがあったんですね。

AZZURRO でも、『BLAST』(現在は休刊)やっているときも楽しかったし、音楽だけやっていたら知らなかった世界も開けた。音楽だけやって更新していく人って、それこそ武道館のステージから見た景色とか、そうした方向での更新ももちろんあると思うんだけど、俺は雑誌をつくっていく中で同じように更新できている気持ちがある。要は、更新――更新という言葉が一番ぴったりくるんだけど――なんにせよ能動的にやっていくことで、フレッシュでいられるというか、新しい世界や人に会ったり繋がっていける限りは、なにをやっていてもいいんじゃないですかね。

――音楽の中だけで更新していく人もいるけど、白石さんの場合は生活の中で更新されていったものが自分の音楽にフィードバックされてくという。

AZZURRO そうですね。それに合わせて、最初に言ったワークフローの話に戻るんだけど。

――なるほど。

AZZURRO 使える時間が細切れだから。だから、例えば丸1日会社を休んで「つくらなきゃ!」とならないと曲がつくれないんだったら、これはもう無理。なので、例えば起きてご飯食べて会社に行く前、いまだと40分ぐらい時間あるんですよ。で、ブラウザ立ち上げてニュース一通り見て、メールをチェックして返信して。あと会社に行くまで30分ぐらいあるというときに、パパッてソフト立ち上げて、何かしら音を足す。で、会社行って働いて。で、帰ってカミさんと飯食って。まあ、酒を飲むときもあるし。で、カミさんは寝る準備して。で、俺は俺でまたメールチェックとかして、そこで何かしら(トラックに)手を加える。ただその10分とか25分は凄く濃い気がする。そこはもう超集中して、「あ、好きな音色。今日はこれでいいや」って。だからそういう濃い10分とか15分をDAWなら積み重ねられる。昔だと、詰めて詰めてやった一瞬を録りましょう!というつくり方だったけど、コンピューターだと短い濃い一瞬一瞬を蓄積できるんですよ。その結果として、曲になにかしらの凄味だったりクオリティが宿るといいなと思って。

――夏休みで一気にわっとつくるのが若者の特権であり凄味だとしたら、大人はそれは環境的にも体力的にも無理だから、逆に働きながら1日のちょっとずつの時間を蓄積していって、そこで同じ高さまで達するという。

AZZURRO 達せられればいいですね。俺、休みになるとつくれないんです。休みの日は休んでしまう。だから、日々の生活の中で仕事が超忙しくてアドレナリンが出ている状態で帰って来て、それでパッと思いついて「あっ、あれにあれを足そう」と1音足す。そこはもう、ただ1音足すだけなんだけど、そのときは超冴えているし集中もしているんです。そういうマネージメントが出来るようになってきた。

――それは音楽に限った話じゃなさそうですね。例えば小説書きとかにも通じる話だ。

AZZURRO ああ、そうかも。だからワープロが出てきたころに原稿の書き方が変わった感じと似ている。ワープロが出てきて、思いついたことを書き留めてあとでまとめる、みたいな。そういうのに近い作業だと思う。もちろんこれまでもある程度はそうしたワークフローだったんだけど、それがより細かい時間での話になっている。

――若者のパッションに対抗出来ないんで、時間と推敲と編集能力で勝負する、みたいな。

AZZURRO パッションねえ。

――そういう闘い方。

AZZURRO そうですね。あとはやっぱり、自分は天然ではないと自覚しているので。だったら職人的な凄味みたいなところで俺は闘っていく、という感じかな。

――大人だなぁ。

AZZURRO それをカミさんはどう思っているか……たぶんめちゃめちゃ子供だと感じているとは思いますよ。

(了)

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